中小製造企業のDX、自社でデータベース開発し業務改善。

製造業では、加工機のデジタル化や自動化は進んでいますが、シバサキ製作所では日々の業務のデジタル化にも取り組んできました。紙を主体とした従来からの業務フローを、社員自らが問題意識をもって改善することで、成果をだしています。データベースを活用した、業務のデジタル化による改善事例を紹介します。

データベース構築で煩わしい業務が無くなる

 シバサキ製作所では、日々数多くの製品の金属加工をおこなっています。金属加工では、加工ごとに様々な工具が必要です。高品質で精度の高い加工を維持するためには、工具は加工に合った最適なものを使用するとともに、最良の状態に保つ必要があります。工具は消耗品なので、常に新しいものを発注しなければなりません。

工具の発注は、材料仕入れや輸出入事務をおこなう部署が担当です。必要な工具の種類と数を3つある製造部ごとでとりまとめて担当部署に知らせ、発注がおこなわれます。発注は月ごとの定期的なものの他、必要が出た際に追加でおこなわれるものもがありました。

画像:製品ごとに日々使用される切削工具。

製造部から担当部署への発注依頼業務は、データベースを活用することで、2020年からオンラインでおこなえるようになっています。従来は、製造部から渡された発注希望リストを、担当部署で手入力していました。今は、各製造部でデータベースへ入力することで、発注依頼がおこなえます。誤発注や発注漏れが無くなり、担当部署での入力作業が削減されたのです。  

さらに、データベースの活用は、社員の勤怠管理にも広がっています。従来、紙ベースでおこなわれていた休暇申請が、データベースで一元管理されるようになりました。これにより、総務部担当者が社内を回り、午前中をかけておこなっていた出退勤の確認作業が、自席にいながら僅かな時間でおこなえるようになっています。

表計算ソフトの限界

工具の発注では次のような問題がありました。発注する工具の種類は、製造部ごとに毎月数百にもおよび、発注数も変わります。発注希望リストは、各製造部でExcelを使って作成されていましたが、発注データを管理するのは担当部署の別のExcelファイルです。リストから手動で入力する必要がありました。数が多いので時間がかかり、入力ミスの不安もあります。

 また、過去に加工していた製品で、どのような工具を使っていたか検索する際や、知りたい項目ごとに抽出してデータを見たいときなど、スムーズに検索、抽出がおこなえず、データ活用の障害になっていました。

画像:各現場に配置された端末とモニター

このような問題を解決する方法として、データベースの活用が検討されます。共通のデータベースに発注希望を入力できるようにすれば、担当部署での再度の入力作業は無くなるので、作業時間は短縮され、入力ミスによる誤発注や発注漏れが無くなります。検索、抽出性もよくなるので、データ活用もよりスムーズです。まず、工具発注の担当者をはじめ、品管、総務など各部からメンバーが集められ、データベース構築のためのチームが組まれました。

自分たちでデータベースを作る

シバサキ製作所には、情報システム課のような、データベースを取り扱う専門の部署はありません。チームのメンバーも、データベースに関しての経験はないため、市販のデータベースソフトを活用することになります。市販ソフトには、利用法に関しての具体的な情報が本やインターネット上に多くあり、それらを最大限活用することで、できるところからデータベース構築をはじめました。

 まずは、用語を覚えるところから始め、業務の合間に少しずつ形にしていきます。3カ月で、発注依頼のデータベースのテスト版が出来上がりました。テストを重ね、6カ月ほどで通常業務で利用できるものが出来上がります。経験はありませんでしたが、容易に使用できる市販ソフトを使い、実際に扱うデータの種類や流れを熟知している担当者が作成することで、短期間でのデータベース構築が実現したのです。

 運用が開始された後も、修正、改良をおこないながら活用し、現在ではこのデータベースを使って依頼から発注までスムーズにおこなわれています。

画像:小集団による改善活動でデータベース開発に取り組みペーパレスも実現。

この事例を受け、総務部では、社員の休暇取得の管理にデータベースを活用することにしました。以前は、休暇申請を受けた上長が、総務部に申請書を回して、どの社員が、いつ休暇をとっているか把握していました。そのため、申請書が総務部まで回っていないと、いつ休暇をとっているかがわかりません。その日の出退勤は、出退勤システムが既にあり、何時に出社し、何時に退社したかは一目でわかるようになっています。

しかし、システム上で出勤となっていない場合、それが休暇で出勤ではないのか、遅刻や押し忘れで出勤でないのかが分かりません。提出済みの休暇申請書類を探して、手元にない場合は電話などで確認する必要があります。場合によっては、現場までいって確認する必要もでてきますが、離れた場所にも工場はあり、確認作業だけで午前中全てを使うことも珍しくありませんでした。

この休暇申請の管理が、工具の発注と同じように、市販ソフトを用いてデータベース化されます。申請を受けた上長が、データベースに入力することで、一元管理できるようになりました。これにより、出退勤の確認作業にかかる時間が、大幅に削減されたのです。

製造企業、自社でできるデジタル化

1日に数千、数万というデータを扱う、日本中に拠点を持つ大企業ならば、データベースの活用は今では当たり前となりました。しかし、そうではない企業でも、少ない人員で業務効率を上げるには、データベースの活用といったデジタル化は避けて通れないものとなっています。

 

「今までは、各部がそれぞれのやり方で、別々の管理をしていました。データベースならば、離れている工場でも、リアルタイムでデータを見ることもできます。紙で承認印をもらって回していたものが、データベース上で出来るようになったので時間がかかりません。必要なデータを調べるのも簡単になりました。今は、ここをもっとこうできないかといった要求が入ってくるので、それに応えられるようにスキルを上げて、他のものにも活用していきたいです。」と、データベース構築チームのメンバーは話します。

現在、データベースの活用は、総務部の他、品質管理部でも進んできました。今後は、全社的に活用が進むことが期待されています。日々の業務が大きく改善すれば、製造コストにもよい効果となります。

全社を挙げて、急激なデジタル化へ舵を切ることは容易ではありません。できるところから小さく始め、社員が主体的に動いて成功事例を積み重ねることで、やがては大きな流れに変えていけます。シバサキ製作所のデジタル改革は、今後も進んでいきます。

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インタビューとコラムのライティング:馬場吉成

工業製造業系ライター。機械設計の業務を長く経験。元メカエンジニアで製造の現場を直接知るライターとして製造業向け記事、テクノロジー関係の記事を多数執筆。http://by-w.info/